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NBAのコミッショナーに学ぶスポーツ界のビジョン(MSNジャーナル:2003年11月6日)

先週、NBA(全米プロバスケットボール協会)の開幕戦が4年ぶりに日本で行なわれ、コミッショナーのデービッド・スターンも来日した。NBAを世界のトップ選手が集うリーグに変身させ、ビジネスとしても成功させたスターンが、NBAの意外な一面などを語ってくれた。

日本のスポーツ関係者は、デービッド・スターンから学ぶことがたくさんある。日本のスポーツリーグの”指導者”を名乗る人々──誰もが病んでいる──はNBA(全米プロバスケットボール協会)コミッショナーのスターンの足もとに座り、その優れた発想に少しはあやかるべきだ。マネジメントについて、とりわけビジョンについて。

1970年代後半に、コロンビア大学ロースクールを卒業した若者が法人弁護士としてNBAに入ったとき、この組織は苦しんでいた。23チームのうち16チームは財政難にあえいでいた。黒人が多すぎて、ドラッグがはびこりすぎて、ファンの興味も地域に限定されすぎだと見なされていたリーグを、大半の広告主が関わりをもちたくないと敬遠した。

スターンがNBAで行なった最初の仕事のひとつで、おそらく最も重要なことは、サラリーキャップ制をめぐる選手組合との交渉だ。1983年4月に当時のNBAコミッショナーのラリー・オブライエンは、チームの年俸総額が一定額を超えてはならないというサラリーキャップ制を導入すると発表した。だが関係者なら知っていたとおり、制度の核心について苦労して交渉をまとめたのは、ニューヨークのデリカテッセンの息子である若手弁護士のスターンだった。[注:デリカテッセンの発祥は、ユダヤ人コミュニティのためにユダヤ教の教義に従って調理した惣菜を売る店で、スターンの父親の店も昔ながらのデリ。]

選手組合との基本合意では、NBAの総収入の53%を選手の年俸にあてて、残りの47%をオーナー側が受けとることになった。

すべてのチームが競い合えるシステム

10月31日に、来日したスターンに1対1で話を聞くことができた。さまざまな話題が出たなかで、日本のマスコミの大半が避ける敏感な問題にも触れた。以下はインタビューの抜粋である。

キーナート(K):サラリーキャップ制は、NBAにおけるあなたの最大の業績ではないか?

スターン(S):最大の業績かどうかはわからないが、大人になってからの人生で、かなりの時間を費やした仕事であることは確かだ。あるチームの年俸総額がほかのチームの3倍に達して競争がゆがむのではなく、すべてのチームが競い合えるシステムを考えなければならなかった。

K:あなたと前回、話をした92年から、サラリーキャップ制の内容は変わっているか。

S:変わったね。最新の労使協定では、選手1人の年俸に上限を設け、エスクロー(NBA全体の年俸総額が総収入にたいして一定の割合を超えた場合の条件)とぜいたく税(年俸総額の上限を超えたチームに課税)も導入した。つまり、制度を確実に機能させるために、さまざまな規定を追加している。そうすればサンアントニオやサクラメントのような(マーケットが小さい)チームでも、ニューヨークやロサンゼルスのような(マーケットが大きい)チームと、本当の意味で競い合える。

第2のMJ(マイケル・ジョーダン)は登場するか?

キーナート(K):ここ何年か、マイケル・ジョーダンの後継者候補としてさまざまな名前があげられてきた。グラント・ヒルにアレン・アイバーソン、最近ではレブロン・ジェームズもそうだろう……ても、MJの代わりは本当にいるだろうか。

スターン(S):いずれ、ずば抜けたスターも登場するだろう。でも私に言わせれば、NBAは素晴らしい選手をたくさん生んできたのだから、1人だけでなく集団で(マイケル・ジョーダンの)穴を埋められるはずだ。ビンス・カーターにシャキール・オニール、レブロン・ジェームズ、カーメロ・アンソニー、トレーシー・マクグレディ……レイ・アレンやエルトン・ブランドもいる。
ただ、1人の選手が誰かの代わりをするという発想はない。マスコミが勝手に探しているだけだ。NBAには30チームある。それぞれのチームに1人か2人、いや、3人くらいずつ偉大なスターが出てきてほしい。

K:そうは言っても、やはり彼(マイケル・ジョーダン)は特別だった。NBAにとっても本当に重要な存在だった。

S:そうだね。彼は、われわれにとっても絶好の時代に登場した。テレビ界が発展し、グローバリゼーションが広まった時代に、彼はスポーツ・マーケティングの意味を定義した。でも、すでに次の段階に進んでいる。マスコミがスターをつくりだす力はすごいじゃないか。レブロン・ジェームズはNBAの試合に実際に出場する前から、すでにマスコミではスターだった。

テレビ中継は212カ国43言語

キーナート(K):83年に初めてあなたと会ったのは、日本がNBAの放映権を買うための交渉の席だった。当時、北米以外でNBAの試合をテレビ中継するのは、日本が2カ国目だという話だったと思うが。

スターン(S):そのとおりだ。最初はイタリアで、1試合5000ドルだった。日本はもっとお買い得な値段だったはずだけど? 1試合わずか1000ドルじゃなかった?(笑い)

K:今は何カ国に増えたのか。

S:現在は212カ国で43の言語で放送されている。その大半は当時のあなたがたより、ずっと大金を払っているよ。(笑い)。

[注]スターンがコミッショナーとして活躍してきたこの20年で、テレビ放映権は2750万ドルから今年はおよそ8億ドル(約880億円)に跳ね上がった。選手の平均年俸は27万5000ドルから460万ドル(約5億600万円)以上に、NBAの職員は40人から1100人に、チームの時価は平均約2000万ドルから3億ドル(約330億円)以上に、それぞれ増えた。オーナーたちは感謝の気持ちを込めて、”スポーツ界で最高のコミッショナー”に年平均700万ドル(約7億7000万円)以上の報酬を払っている。

罰金は慈善活動に寄付

キーナート(K):多彩な顔ぶれのオーナーのなかでも、ダラス・マーベリックのマーク・キューバンはコービー・ブライアントのスキャンダル(女性への性的暴行容疑で起訴された)について、NBAにとって基本的に好ましいことだと語ったという。NBA全体がいっそう注目されるからと、言ったそうだ。この発言をどう思うか。

スターン(S):キューバンの発言が報じられているとおりだとしたら、彼が本当にそう言ったのかどうかは知らないが、彼は間違っている。悪いことは、決していいことにはならない。そしてコービーの件は、誰にとっても悪いことだ。

K:あなた自身はコービーの起訴についてどう思うか。

S:アメリカには偉大な(司法)システムがあって、陪審員が無罪か有罪かを決めたあとに、私たちは発言するべきだろう。

K:キューバンがNBAに来てから長くないが、これまでに罰金はいくらになった?

S:かなり多いね。100万ドル(約1億1000万円)くらいじゃないか。

K:彼やほかの人から徴収した罰金の使い道は。

S:慈善活動に寄付している。いろいろな活動を支援してきたが、最近はNBAの”Read to Achieve”プログラムに多くを費やしている。新しく始めた”Africa 100 Camp”や、パレスチナとイスラエルの子供を支援するニューハンプシャー州の”Seeds of Peace Camp”、東欧で進めている”国境なきバスケットボール”プログラムもある。
もちろん、すべての活動を罰金だけでまかなっているわけではない。活動費の大部分はオーナーなど、NBAファミリー全体から出ている。われわれNBAはリーグとして成功するだけでなく、社会にとっていいことをする機会も与えられていると、みんなが理解してくれている。この2つは密接に関係しているから。

K:この前、会ったときは、あなたがNBAを離れてメジャーリーグのコミッショナーに転身するかもしれないという噂もあった。でも、あなたはNBAの仕事を楽しんでいると語っていた。今も楽しんでいる?

S:間違いないね。私がこの仕事を続けたいと思った理由のひとつは、グローバリゼーション時代の興奮と挑戦があったからだ。実に正しい選択だったと確信している。

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