Welcome to Marty's Ballpark!

ismac 講演依頼はこちら

ENGLISH 英語ページはこちら

トップ > 記事の紹介 > なぜスポーツ界ではゲイが許されないのか(MSNジャーナル:2002年11月6日)

記事の紹介
ARCHIVES

なぜスポーツ界ではゲイが許されないのか(MSNジャーナル:2002年11月6日)

ファッション界や音楽界のスターが同性愛を告白しても、最近ではそれほど驚かない。それなのになぜ、スポーツ界では認められないのか。個人競技では同性愛で知られる選手も増えているが、チームスポーツではいまだにタブーとされている。プロフェッショナルとして完璧なら、彼や彼女の性的嗜好は関係ないはずだ。

10月29日の西武ドームで、私は日本シリーズ第3戦のテレビ朝日の実況をしていた。試合前、私は別のネットワーク局のアナウンサーに、そのスキャンダラスな記事は本当なのかとたずねた。

彼はその日の東京スポーツ新聞を読んでいた。1面は、東京六大学野球のエースで今年のドラフトでも1位指名が予定されている選手が、ホモセクシュアルのAVビデオに出演していたという記事。前日に発売された週刊現代の報道に基づく内容だった。要するにその愚かな大学生は、輝かしくなるであろうプロ生活が始まる前に、早くも将来を台なしにしたということらしい。

アナウンサーは情けないという顔で私を見た。「本当らしい。しかも彼は私と同じ大学だ。私は20年前の卒業生だけど、後輩がこんなことをしたなんて、恥ずかしくてたまらない。最近の若者はどういうつもりなんだ」

その後、私もこの話が本当だという報道をいくつか目にしたし、選手の名前も聞いた(ここで明かすつもりはない)。さらに、かなり信頼できる関係者から、この選手をドラフト1位指名する予定だった球団は話を白紙に戻し、順位にかかわらず彼を指名するつもりはないとも聞いた。私の知るかぎり、プロ野球の世界において彼は「死んだ」のだ。

現役中は「隠さなければいけない」

ファッションや音楽、美術など、同性愛がそれほど問題にならない分野もあるのに、なぜ多くの世界では、とくにスポーツ界では、少なくとも大っぴらには認められないのか。これは面白い現象と言える。

スポーツ界の同性愛をめぐる論争は、アメリカでは年々大きくなっている。日本で物議をかもすのも時間の問題だ。いや、すでに陰ではささやかれているが、知られていないだけかもしれない。

東京スポーツが同性愛者の大学野球選手について報じた2日後、アメリカでは元NFL(全米プロフットボール)選手のエセラ・トゥアオロが自分は同性愛者だと告白した。

このニュースは、北米のマスコミではかなり大きく取り上げられた。というのも、トゥアオロは体重140キロの巨体。ディフェンシブラインマンとして9年間(1991〜99年)堅実なプレーを続け、98年にはアトランタ・ファルコンズの一員としてスーパーボウルにも出場している。

興味深いのは、このハワイ出身の男がスポーツ界の同性愛者の大半と同じように、現役中は本当の自分を隠さなければいけないと思っていたことだ。そして、グリーンベイ・パッカーズ時代のチームメイトだったスターリング・シャープも、トゥアオロは現役時代に「クローゼットから出てこなくて」よかったと言う。

「殺されてもおかしくないくらい、憎まれていただろう」

しかし、ミネソタ・バイキングスでトゥアオロと一緒に闘ったショーン・サールズベリーはシャープと違って、もっと好意的に語っている。

「エセラにとってよかったと思う。やっと重荷から解放されたんじゃないか。そんな秘密をずっと抱えている気持ちは、僕には想像できない。彼の好みと考え方は僕とはかなり違うけど、でも、違うからといって悪魔というわけじゃない」

サールズベリーはさらに続けた。「マッチョな世界だからね。フットボールでは男は絶対に泣かないものだし、繊細な感覚なんかないことになっている。ゲイとは友だちにさえなれないんだ。僕としては、NFLの選手たちに『現実を見ろ』と言いたい。ゲイの選手はいないと思っているなら、どうかしている。とっくにゲイの選手とプレーしているのに、気づいていないだけだ」

「エセラとは3年間同じチームだった。彼はいつもプロフェッショナルで、いつも一生懸命だった。チームを軽んじたこともない。素晴らしい男だった。尊敬されていたよ」

個人競技では受け入れられているが

私自身はサールズベリーと同じ考えだ。アスリートの実績や振る舞いが、チームやスポーツにおいてあらゆる面でプロフェッショナルであるかぎり、彼/彼女の性的嗜好は完全にプライベートの問題とされるべきだ。

アメリカでは数十年前から、多くのアスリートが同性愛を「カミングアウト」しているが、共通点がひとつある。ほぼすべての選手が個人競技で、そうでなければ引退後に公表しているということだ。

テニス界にはビル・ティルデンやビリー・ジーン・キング、マルチナ・ナブラチロワなど、有名なゲイの選手がいる。ゴルフ界も女子選手に同性愛者が多いことで知られ、最近ではマフィン・スペンサー・デブリンと殿堂入り選手のパティ・シーハンが、いずれもLPGAツアー参戦中にカミングアウトした。

フィギュアスケートでは1996年の全米チャンピオンで、世界選手権でも銅メダルを獲得したルディ・ガリンドーが現役中に告白。マシュー・ホールやブライアン・ポッカー、ロブ・マッコールなど数人のカナダ人選手も公表した。

グレッグ・ルーガニスは、水泳の飛び込みで史上最高の選手に数えられている。1976年のモントリオール五輪では、16歳にして銀メダルを獲得。84年のアトランタ大会と88年のソウル大会で2個ずつ計4個の金メダルを手にし、全米選手権のタイトルを47個という信じられない実績を残している。そして1995年2月22日、ルーガニスはエイズに感染していると公表した。

最も「男らしい」スポーツにも

しかしチームスポーツの場合、同性愛を告白することはかなりの不名誉とされるようで、現役中にカミングアウトする勇気がある選手はほとんどいない。

先週トゥアオロが告白するまで、NFLでカミングアウトした選手はランニングバックの花形スター、デイブ・コペイだけだった。コペイは1976年に著書『デービッド・コペイの物語』で衝撃の告白をしたが、やはり引退した後だった。

スポーツで、とくに野球選手が、「ハイファイブ」をする場面をきっと見たことがあるはずだ。何かしら成功した後、ジャンプしながら頭の上で手のひらをパチンと合わせる、お馴染みの光景だ。でも、あのパフォーマンスの起源となったグレン・バークという選手はメジャーリーグで初めてカミングアウトしたのだと聞けば、あなたも驚くだろう。

バークは野球だけでなく、高校時代はバスケットと短距離の選手としても活躍した。野球ではメジャーという頂点に立ち、1976〜79年にロサンゼルス・ドジャースとオークランド・アスレチクスでプレーした。そして、引退後に同性愛者であることを公表。1995年5月30日にエイズによる合併症で死んだ。

サンディエゴ・パドレスの外野手だったビリー・ビーンも、引退後の1999年にカミングアウトしている。野球界のゲイとしてもっと有名なのは、審判歴18年のデイブ・パローンだ。彼は88年に、フィールド外でスキャンダルを起こしたことを理由に仕事を失った。

パローンは90年に『マスクの後ろで:野球界での二重生活』という面白い本を出版し、球界のゲイの選手で1チームの全ポジションをそろえられると語っている。
「最も有名で、最も素晴らしい実績を残した選手も何人かいる」

同性愛者のアスリートの名前はまだまだ挙げられるが、ここであらためて言っておきたい。最も男らしいとされるスポーツにも、間違いなく同性愛者がいるのだ。

1995年に、オーストラリアのラグビー界でも屈指のスター選手で、報酬も1、2を争うフォワードのイアン・ロバーツがカミングアウトした。97年には著書『イアン・ロバーツ──真実を語る』を発表。プロ競技から完全に引退する1年前のことだった。

アメリカの4大スポーツ全体で400人?

社会学者によると、世界の人口のうち5〜10%が同性愛者だという。この数字が正しいとすれば、MLB、NFL、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)というアメリカの4大プロスポーツだけで、少なくとも200〜400人の同性愛者がいるはずだ。

日本の野球界はどうか。同じ数字に基づくと、プロ12球団で少なくとも40〜80人という計算になる。大げさだと思うかもしれない。でも、どうして? どうして普通の人とアスリートが違うと言えるのか。

そもそも何が問題なのだろう。

冒頭の六大学の選手が、同性愛者だからという理由だけでプロ球団から声がかからなければ、ある意味でかわいそうだと思う。これは個人の性的嗜好であり、ほとんどの「異性」愛と同じように慎み深く行動するのであれば、職業選択の権利を犠牲にする理由にはならないはずだ。

AVビデオに出演したと思われるからという理由なら、まだ理解できる部分もある。ただし、それはそれで、この国のダブルスタンダードを浮き彫りにしている。

日本ではときどき、かつてはAV界の女王と呼ばれていた女性が、朝から夜まで主流のテレビ番組のレギュラーとして登場している。AV界のスターだったことは、彼女たちの経歴に傷をつけていないようだ。男性だけが違う理由はどこにもない。

記事の紹介に戻る