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タイガー・ウッズとイチローは「兄弟」だ(MSNジャーナル:2001年10月24日)

世界が認める最高のアスリートたちは、才能と努力で自分の力を証明した。タイガーはタイガーであり、イチローはイチローだ。それ以外の何者でもない。

1996年にタイガー・ウッズがプロに転向したとき、彼の人種が話題になった。彼の両親は異なる人種間の結婚なので、記者はタイガーについてどう表記するか戸惑い、本人に空欄を指さして尋ねる者もいた。「自分はどの人種だと思うか?」 「人間だ」と、タイガーは自信たっぷりに答えた。「僕は僕だ。あなたの目の前にいるとおりの人間だ」

ウッズは自分が受け継いだ文化的遺産を誇りに思っていて、何ひとつ隠そうとしたことはない。父親は半分が黒人系アメリカ人、4分の1がネイティブアメリカン、4分の1が中国系アメリカ人だ。母親は半分がタイ人、4分の1が中国人、4分の1が白人(オランダ系)だ。つまり、世界一のゴルファーは4分の1が黒人、4分の1がタイ人、4分の1が中国人、8分の1がネイティブアメリカン、8分の1が白人ということになる。

当然ながら、これら5つの人種の人々は、ウッズが部分的に「自分たちの1人」であることを誇りにできる。しかし、だからすべてのタイ人は生まれつき何かゴルフの才能に恵まれていると思うのは、ばかげているだろう。中国人でも、何人であれ同じことだ。

タイガーはタイガーだ。彼が特別なのは、神に才能を与えられ、最高峰をめざして本人が一生懸命に努力したからこそだ。もちろん、タイガーが幼いころから練習を手助けしてきた父親の功績も忘れてはならない。しかし、人種とは何の関係もない。タイガーは世の中で特別な人間のひとりだ……それに尽きる。

過去50年で最高の外野手

イチローにも同じことが言える。この1年にイチローが成し遂げたことは、彼が日本人であることにも、日本の野球とも、まったく関係がない。イチローの活躍のすべては、神から与えられた才能と、世界最高のプレーヤーの仲間入りをしようと本人が一心に努力した結果である。すべての名誉はイチローのもの、彼が自力で手にしたものだ。

今週、ア・リーグの優勝決定シリーズでマリナーズがヤンキースにあっさり完敗した後、両チームの監督はそろってイチローに最上級の賛辞を送った。

マリナーズのルー・ピネラ監督は次のように語った。

「最近、イチローに直接お祝いを言った。とても素晴らしいシーズンを送ったと彼を称えたし、本当によくやった。すごいじゃないか。242本安打に、リーグの盗塁王だ。自分がこの1年に成し遂げたことを、誇りに思うべきだと彼にも話した。厳しい注目にさらされながらこの国に来て、あらゆる人のあらゆる疑問に答えたのだ」

ヤンキースのジョー・トーリ監督もピネラの評価に賛成し、さらにつけ加えた。

「彼は最高のバッターだ。風のように走る。外野の守備は誰よりもうまい。私がこんなふうに言うのは、(プレーオフを制した後で)興奮しているからではない。前にも言ったように、私が知っている外野手の中で、彼よりうまい外野手はいない」

これ以上の褒め言葉があるだろうか! トーリは現在61歳。18年間(1960〜77年)のプロ生活ではオールスターに9回出場し、1971年にはナ・リーグのMVPにも輝いている。引退後は野球史上、最も優秀な監督の1人でもある。

そのトーリが、自分の覚えている限りいちばんうまい外野手だと称えたのだ。つまり、過去50年あまりのあらゆる偉大な選手、オールスター出場選手、そして野球殿堂に名を連ねる名選手たちの中で、イチローは最高であるということだ。

すべての日本人は、この最高級の宝石が自分たちと同じ日本人だと誇りに思おう。しかし、彼の偉大な功績を、どんな意味でも自分たちの手柄だと自慢することはできない。

「今ある自分を出すことができて」

今週の日曜日の朝も、TBSテレビの「サンデーモーニング」で愉快な場面があった。出演者たちが、イチローはメジャーリーグに日本の野球の力を見せつけたと、得意げに喜んでいたのだ。日本人選手が次々にメジャーへ飛び込み、1年目から首位打者と盗塁王などなど数多くのタイトルを獲るだろうと想像するのは、おかしな話だ。

イチローはイチローであり、日本の野球について何ひとつメジャーに教えてはいない。彼が日本の野球を象徴する存在ではないことは、タイガー・ウッズがタイや中国のゴルフ界を象徴する存在ではないことと同じだ。

イチローはどんなインタビューでも、「日本の野球が何たるかをメジャーのファンに見せることができてうれしい」という意味のことは、一度も答えていない。彼は、「今ある自分を出すことができて、野球を見る目が肥えているアメリカの人たちがそれを見てびっくりしてくれたら、気持ちいいでしょうね」と語っている。

間違えてはいけない。「メジャーのファンに、日本人もこんなふうにプレーできるのだと伝えられてうれしい」とは言っていないのだ。

人種の枠を超えたウッズとイチロー

1997年7月15日にニューヨーク・タイムズ紙は、伊良部秀輝の実の父親がアメリカ人だというスクープを報じた。記事によると、タイムズ紙の記者が伊良部の義父に電話でインタビューしたところ、事実関係を認めたという。伊良部本人はコメントを拒否して、「個人的な問題だ」と主張した。

誰も自分の両親を選ぶことはできないし、つまりは自分の人種も選べない。でも、自分がどんな方向をめざし、どんなふうに振る舞うかは、自分で選ぶことができる。

タイガー・ウッズとイチローは、自分が並外れて優秀なアスリートであり、優れた身体的能力と驚くような精神的強さを結びつけて成功したことを、世界に証明した。確かにある程度は育った環境が彼らをつくったとも言えるが、人種の枠ははるかに超えている。

タイガーとイチローは同じ仲間だ。

彼らを誇りに思おう。自慢してもいい。ただ、覚えておいてほしい。彼らの名誉は誰のものでも、絶対に誰のものでもないのだ。

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