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メジャーリーグに学んではいけないこと(MSNジャーナル:2001年8月29日)

新庄も、未来の新庄やイチローをめざすリトルリーガーたちも、メジャーリーグに学んではいけないことがある。アメリカでも日本でも、野球関係者は喫煙についてあまりに無神経ではないだろうか。

8月26日に行なわれたリトルリーグ・ワールドシリーズの決勝戦で、東京北砂リーグが優勝した。おめでとう。55年におよぶ大会史上、日本のチームが優勝したのは5回目で、彼らの勝利は大ニュースだった……少なくともアメリカ人にとっては。

開催地のアメリカでは決勝戦がテレビで「生中継」され、4万4800人のファンが球場に詰めかけ、始球式で投げたジョージ・W・ブッシュ米大統領も観戦した。日本人には日本代表の活躍を心から誇りに思ってほしいし、日本のマスコミは今回の優勝をもう少し報道してほしかった。

見事なサヨナラ勝ちで優勝した翌日、東京北砂リーグはニューヨークを訪れ、シェイ・スタジアムでニューヨーク・メッツ対サンフランシスコ・ジャイアンツ戦を観戦した。この27日の試合で新庄剛志は4回にシングルヒットを打ち、8回には通算8本目のホームランを放って、8月に入って初めて1試合2本以上の安打を打った。

新庄とメッツを応援していたリトルリーグの少年たちには残念だったが、試合は6対5でジャイアンツが勝った。でも、メジャーリーグの本塁打王、バリー・ボンズが56号アーチを放った場面を見て喜んだことだろう。ボンズが今シーズン70本を超えるホームランを打ってメジャーリーグ記録を塗り替えるかどうか、人びとの予想は盛り上がっている。可能性は十分にありそうだ。

新庄のポケットから、かみタバコの缶が!

しかし私はここで、東京北砂リーグのリトルリーガーに、そしてすべての若い野球選手に警告しておきたいことがある。それは、メジャーリーグから学んでは「いけない」ことについてだ。

新庄は8月に入って調子が悪く、外野を守るよりベンチにいる時間のほうが長い。8月21日のメッツ対コロラド・ロッキーズ戦では、NHKのカメラがベンチに座っている新庄を繰り返し映した。

試合の序盤で、カメラは新庄がヒマワリの種を食べて皮をグラウンドに吐き出す姿をとらえた。いささか行儀は悪いが、ちょっと愉快な場面で、メジャーリーグでは以前からおなじみだ。

その次に新庄がアップになったとき、私はショックを受けた。彼はポケットからかみタバコの缶を取り出して振った。たぶん、中のタバコを混ぜるか、香りを出そうとしたのだろう。それから缶を開け、タバコをたっぷりつまみ出して口に入れると、下の歯茎と頬のあいだに含んだ。

この光景を見て、私はとてもがっかりした。新庄は個性的な選手で、変わったことをするのは知っている。でも、かみタバコがアメリカ人らしい振る舞いだと思ってやっているとしたら、本当に愚かなことだ。

少年たちの目の前で喫煙するリトルリーグ関係者

私がいつも驚くのは、日本人のアスリートがいかによく練習して、いかによくタバコを吸うかということだ。まったくつじつまの合わない話だが、すでにリトルリーグの時代から始まっている。そう、リトルリーグのころからだ。

私の息子たちは東京のリトルリーグで野球をやっていたが、周囲にいるほとんどの男性が(女性もかなりの人が)、コーチも手伝いやボランティアの人もみんな、タバコを吸っていた。彼らも他のチームのコーチたちも、練習の前後や休憩時間になるたびに、グラウンドの選手たちの前で堂々と吸う。さらに、試合前も「ユニフォーム姿で」グラウンドやダッグアウトで煙をふかし、大会役員や審判までが、グラウンドやグラウンドのすぐそばでタバコをくわえていた。いつもいつも、彼らが指導している若者たちの目の前でだ。なんというお手本だろう!

そう考えると、日本のプロ野球選手の大半が喫煙者であることも不思議ではない。選手や監督、コーチの多くはニコチン中毒と言えるほどで、「試合中も」ダッグアウトの裏やカメラに映らないところで吸っている。

最近では、メジャーリーガーで日常的に喫煙する選手はあまり多くない。自分の身を滅ぼす習慣についてさまざまな情報があり、反論の余地はないからだ。タバコのパッケージにもこんな警告が記されている。「喫煙は癌、肺気腫、心臓病の原因になります。妊娠の障害になる可能性があります。中毒になります」

しかし、かみタバコを愛用しているメジャーリーガーはかなり多く、全体の35%とも言われている。ワイルドな西部劇の時代に逆戻りしているのだ。

西部開拓時代のカウボーイは、野生の馬を手なずけ、ウイスキーをストレートで飲み干し、かみタバコをかんで、2メートル先から痰壺に命中させることができればマッチョだと認められた。悲しいことに一部の単純な野球選手は、いまだにかみタバコをマッチョな証だと思っている。

マイナーリーグは勤務中のタバコを全面禁止

しかし、アメリカの野球界は選手たちの啓発に取り組んでいる。1993年にマイナーリーグ全体、4000人以上の関係者を対象にある規則が成立した。

「選手、監督、コーチが”勤務中に”タバコ(紙巻きタバコ、かみタバコ、パイプ)を使用することを禁止する。ダッグアウト、グラウンド、クラブハウス、遠征で移動するチームバスの中を含む」

さらに、春のキャンプではすべてのマイナーチームに、1990年代の初めに壮絶な死をとげた若い投手のビデオを見せている。かみタバコが原因で口腔癌になることなど、想像もしていなかった若者だ。将来を期待されていたこの投手は、数回の手術を受けて顔の半分近くをメスで切り取られた後、最後には癌が脳に転移して、若干21歳で世を去った。

北米ではタバコを否定するムードが急速に広がっていて、すべてのタバコ製品を禁止するマイナーリーグの規則が、メジャーでも当たり前になる日は近そうだ。

新庄には、かみタバコのたしなみ方以外のことをメジャーリーグで学んでほしい。かみタバコの標準的な1回分には、紙巻きタバコ約4本分のニコチンが含まれる。簡単に言えば、かみタバコは、普通の紙巻きタバコを吸うより4倍早く人の命を奪いかねないということだ。

新庄が自分の健康を気にしていないとしても、東京北砂リーグの幼いチャンピオンたちや、自分に注目しているすべての若い野球選手のことを考えるべきだ。そしてリトルリーグのすべての指導者も、同じことを考えなければいけないはずだ。

東京北砂リーグのコーチたちは、ワールドシリーズの会場となったペンシルベニア州ウィリアムズポートで、リトルリーグ施設のいたるところに「禁煙」の表示があるのを見ただろう。願わくばそれが彼らの心を動かし、喫煙者も日本に帰ってからは、影響を受けやすい若い選手の前で二度とタバコを吸わないようになってほしい。

アメリカのマイナーリーグが実施しているタバコ禁止令を、日本のリトルリーグも導入してはどうか。実現すれば、なんと素晴らしい進歩だろう!

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